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糖尿病患者のセルフサポート

 

11月7日、トマト内科スタッフと共に、宇都宮東病院にて開催された講習会「第11回 深めよう!糖尿病患者のセルフサポート」に参加してきました。

 

基調講演は、東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科教授 西村理明先生による、「CGM/FGMとAGPをもちいた糖尿病治療の最適化」でした。CGM/FGMとは、トマト内科の糖尿病治療でも日常的に活用している、グルコースモニタリングシステムのことです。(詳細については過去のブログ記事をご覧ください。)

 

西村先生の所属する研究グループは、日本国内においてどこよりも早くCGMを用いた血糖プロファイルを評価する研究に着手されたようで、そのため、今回のような講演会を担当されることが多いようです。

 

トマト内科の院長は、エンジニアの経歴があります。医師になり糖尿病に関わるようになったときから、指先穿刺による血糖測定の限界を感じ、CGMが理想と考え、装置の研究を行ってきました。残念ながら外国メーカーに先を越され、開発は頓挫しているようです。

 

トマト内科では現在55台のFGMが使われています。患者さん、医療スタッフにとって、血糖変化を把握する上で有力なツールとなっています。コストの問題と、精度の問題がが解決されれば、今後指先穿刺の血糖測定はいらなくなるように思います。ただ、圧倒的に多くの情報が得られるため、情報の取捨選択に悩みがありました。今回の勉強会で有益な情報をいただくことができました。

 

 

「先生が強調して仰っていたことは、このCGM/FGMにより、SMBG(自己血糖測定)では捉えきれない血糖変動を知ることができ、むしろSMBGのみでは、夜間就寝中の低血糖、食後の高血糖(0〜2時間未満)を見逃してしまう可能性がある、ということです。実際、インスリン治療をしている2型糖尿病患者では、HbA1cや空腹時血糖値が安定していても、約半数が低血糖を認め、そのうち7割以上が自覚症状のない低血糖を起こしていることが、CGMを用いた研究で明らかになっているようです。

 

トマト内科でCGM/FGMを利用されている患者さんの中にも、日中の低血糖には気付くが、夜間就寝中ではよほど低値を示さない限りは気付かず寝たまま、という方がおられますが、それも1名だけではありません。低血糖は、適切な対処をしなければ命に関わる可能性があり、高血糖より怖いものです。自覚できないところで低血糖になっていないかを知ることができるCGM/FGMは、特にインスリン治療をされている方には是非利用して頂きたいと改めて感じました。

 

CGM/FGMを患者さんに使いこなしていただけるようになっていただくことが、会のタイトル「セルフサポート(自立)」に寄与するものと思いました。

 

 

 

CGM/FGMの結果を解析する上で、AGPをどのように活用するかのポイントも解説して頂きました。AGPとは、数日間以上の血糖変動データから、1日のうちで低血糖/高血糖になる可能性の高い時間帯、血糖変動が大きい時間帯などを視覚的に簡単に把握できる解析手法のことです。

 

CGM/FGMでは、1日の血糖変動を曲線で把握することができます。AGPの読み方としては、濃い青色帯(25〜75パーセンタイル曲線)は、各時間帯で約50%の確率でこの範囲内に血糖値が入ることを示します。薄い青色帯(10〜90パーセンタイル曲線)は、各時間帯で約80%の確率でこの範囲内に血糖値が入ることを示します。濃い青色・薄い青色の幅が広いことは、その時間帯は日により血糖値のバラつきが大きいことを示しています。また、中央線の上下動が大きい箇所は、1日の中で血糖変動が大きい時間帯であることを示します。

 

AGPをチェックするポイントとしては、青色の帯が目標血糖値の範囲内に収まっているか、目標範囲外では低血糖なのか・高血糖なのか、などです。日頃の解析において、私自身は食事と血糖の関連を見るために1日毎の変動を中心に見ていましたが、このAGPで傾向を把握してから1日毎の詳細を見ていく、という流れを活用していきたいと感じました。

 

 また、CGM/FGMを利用していない場合、HbA1cと空腹時血糖値だけでは血糖変動を把握しきれないため、時には食後1時間、2時間、3時間値を計測し、その変動を知ることが重要だと強調されていました。当院では、空腹時での採血をお願いすることがありますが、基本的には採血時に直近の食事時間を教えて頂くことが主です。その結果で傾向を掴むこともできますが、SMBGをされている患者さんには、時々食後1〜3時間で計測してみることをお勧めしても良いのでは、と感じました。

 

 基調講演の他には、「各施設での取り組み・成功例・悩んでいる点について」と題し、3施設の医師・看護師・管理栄養士の先生方がパネラーとして講演されました。CGM/FGMを利用した成功例としては、やはり低血糖に関することが多く、夜間低血糖を発見し改善できた、低血糖の時間を短縮できたなどが挙げられました。また、血糖変動を知ることでインスリン投与量が調整しやすくなった、患者さんのアドヒアランスが向上したことも挙げられ、トマト内科で実感している内容と同様なことが多かったです。悩んでいる点としては、センサーが2週間以内で外れてしまった、皮膚かぶれが起きた、などセンサーの問題に関することが主でした。

 

低血糖に関しては、現在のセンサには精度の問題があり、過大、過小評価されている可能性があるように思います。今後より精度の高いセンサが発売されるようですので、期待大です。

 

今年は、糖尿病学会や様々な講演会で、CGM/FGMが多く取り上げられています。第一線で研究されている先生の講演を聴いたり、他施設での取り組みを知ることは、新しい情報・視点を得ることができ、日常業務に大いに活用できます。今後も、積極的に院外の講習会に参加していきたいです。

 

管理栄養士 大西